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前提知識
・熱量と温度の関係
・対流熱伝達
・Scilabの使い方
対流熱伝達における熱伝達率の求め方について説明します。
■対流熱伝達のおさらい
対流熱伝達の式は以下のとおり。

ここで熱量Qは以下となります。

これを上式に代入すると、

となります。
■熱伝達率とは
熱伝達率とは、対流による熱交換の効率の良さを定義したもので、熱伝達率が大きいと早く熱交換され、
熱伝達率が小さいと熱交換がしづらくなります。熱伝達率 hは以下の様に定義します。

<ヌセルト数とは>
上式において熱伝達率を決める要素の一つにヌセルト数(ヌッセルト数)があります。
ヌセルト数は、動きのない液体において、対流によって熱伝達能力がどれくらい大きくなったを表したもので、ヌセルト数が大きくなると伝達能力が大きくなります。
ヌセルト数の意味を違う言い方で説明すると流体がいかによく混ざりやすい状態であるかであり、それを表現するのにレイノルズ数とプラントル数を用います。
なお流体の動きがなく、ほとんど混ざっていない場合にはヌセルト数は1となります。
ヌセルト数はレイノルズ数とプラントル数を用いた実験式で表現することが多く、流体の状態によって適用できる実験式が変わります。円筒内流体における代表的な実験式として、層流時はハウゼンの式、乱流時はコルバーンの式があります。


<レイノルズ数とは>
レイノルズ数Reとは流体の乱れの発生のしやすさを示す指標となり、以下で定義されます。

これは流速と粘性の比を取ったもので、粘性に比べて流速が早いほどレイノルズ数が大きくなり乱流が起きやすく熱交換がしやすい状態となり、逆に粘性の方が強いとレイノルズ数が小さくなり乱れの無い層流になり、熱交換しにくい状態となります。
一般的に円筒管内において、レイノルズ数が2300以下で層流、2300以上で流れが乱れ始め、4000以上で乱流になると言われております。

なおカルマン渦は一見乱流に見えますが、それぞれの渦の構造が均一であるため層流に分類され、レイノルズ数はおよそ50~300程度となります。乱流とは肉眼では見ることができないミクロな流れの変動がある流れとなります。

<プラントル数>
プラントル数とは流体の動粘性係数と熱拡散係数の比を表したもので、流体に固有の値で速度境界層と温度境界層の厚さの比を意味します。
定義は以下。

速度境界層に比べ温度境界層が薄く(熱拡散率が小さく)なるとプラントル数が大きくなり、熱交換が活発にされ易くなることを意味しており、逆に速度境界層に比べ温度境界層が厚くなると
プラントル数は小さくなり、温度の層で守られるため熱交換がされにくくなる事を意味しております。
例えばプラントル数は、水でPr=7、空気でPr=0.7となり水の方が熱交換されやすい事が解ります。これは水と空気が同じ10℃であっても水の方が冷たく感じると思いますが、
これは水の方が温度境界層が薄く熱交換されやすいためです。

以上で熱伝達率を求めるのに必要な情報を説明しましたが、具体的な例題を解いてみます。
■対流による影響を考慮した流体温度の算出方法例題
以下の様に100℃に保たれた円筒管内に20℃の水が流れている。加熱区間が終了した時点での水は何℃となるか。

<回答>
(1)式にある、水の質量m、円筒の表面積S、熱伝達率hを求めることが出来れば、問いの答えは求まります。(比熱cは与えられている)。
■水の質量
質量 = 密度 * 体積より、

■円筒の表面積

■熱伝達率
熱伝達率hを求めるには、まずはレイノルズ数とプラントル数を求める必要があります。
① レイノルズ数

となり、4000より大きな値なのでこれは乱流であることが分かります。
② プラントル数

③ ヌセルト数
レイノルズ数とプラントル数が求まったら、ここからヌセルト数を求めます。使う式は流体は乱流なのでコルバーンの式を用います。

④ 熱伝達率
ヌセルト数が求まったので、熱伝達率を求めることが出来ます。

これで(1)式に必要な値が全て求まりました。(1)に上記値を代入します。

<Scilabによる対流熱伝達による温度変化のシミュレーション>
上記式の解をScilabで求めてみます。ブロック図は以下のとおり。

シミュレーション結果は以下のとおり。流速が0.2m/sの水が2mの管を通るのには10sかかるので、10s後の温度が出口温度と等しくなります。
従って出口温度は約60.2℃となります。

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